星月夜 とりとめもなく 綴るなり

のんびりとひとりごと

「人間失格」を読みました。

この本について感想を書くのもいまさら感が漂うほどのとても日本では知られた小説ですね。太宰治さんの人間失格。日本で歴代売れた本の第3位だそうです。ちなみに2位は夏目漱石のこころで、1位は窓際のトットちゃん。

ネタバレありです。あと、内容が暗いので(この感想もこの小説自体も)読むときに注意してください。

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実際私も読むのは3回目くらいです。前回読んだのはもうたぶん30年位前かもなあ。前回前々回読んだ時も面白いと思いましたが、今回も面白かったし自分的には新たな感想を持つことができました。3回読んでも面白いというのはすごいことですね。

主人公の葉蔵はまあとにかく心が綺麗すぎる。だから人の欺瞞や世渡りのうまさのようなものを嫌悪するし、そして人とうまくやっていくために道化を演じている自分も許せない。私も人付き合いが苦手だし、その他いろいろ細かいところでも自分と似ているなあと思うところが結構ありました。ただ私はここまで徹底的ではないので、見ないふりをしてごまかしてなんとか生きているんだろうな。

さらっと書いてありますが、葉蔵は幼いころに下男下女に性的虐待を受けたと思われる文章があります。この前読んだ川上未映子さんの「夏物語」にも同じような経験をした善百合子が登場し「生まれてきたくなかった」と言っています。こういう経験はその後生きていきづらくする最たるものなのですね。確かに人が怖くなるだろうな。信じられなくなるだろうな。

そして葉蔵は親や家族からも深く愛された様子がない。いわゆるアダルトチルドレンなのではないかと思いました。私も自分がそうではないかと思い昔そのことに関する本をたくさん読んだことがあります。でもそういう本って、こういう人がアダルトチルドレンだとかその原因とかしか書いてなくて、ではどうすればいいのかが書いてない。それにひとりで向き合うのは結構つらいんですよね。なので読むのをやめました。

愛された経験がないから自己肯定感が持てず、自信がなくてすぐに自分を責めてしまう。読みながら「そんなことないよ。あなたは悪くない。大丈夫だよ。」と何度も言ってあげたくなりました。良い友人や先輩に恵まれなかったこともありそうですね。何もできなくても、何も持っていなくてもあなたはそのままでいいんです。生きていていいんだよってどうすれば思えるようになるんだろう。伝えられるんだろう。

私の場合はまだ不眠症などの症状はありますがだいぶん回復出来てきたように思います。例えば嫌なことを嫌だと言えるとか。葉蔵は言えないんですよね。その気持ちよくわかります。私も以前は言えなかった。でも私は今は言えるようになりました。なんでかな。よくわからないけど以前よりは強くなれてきたかなと。

始めの方にゴッホの自画像の話が出てきます。この部分は全然覚えてなかったのですが、ゴッホが好きでゴッホの映画を観たり展覧会に行ったりしているのでおおっと思いました。ゴッホは自分の中の妖怪を自画像に描いているのだと葉蔵は考えている。

最後の方まで読んで葉蔵の人生はまるでゴッホのようだと思いました。ゴッホも父親との確執があり、絵画を懸命に書くけれども全く売れず、人ともうまくつきあえずに貧困の中精神病院に入院し自殺してしまいます(この自殺説は現在は事実かどうか確実ではないようですが)。葉蔵も人間関係や仕事がうまくいかずお酒や薬で現実逃避するようになり、親に見捨てられて最後は脳病院に入れられて僻地に隔離される。葉蔵とゴッホとの違いはやはり絵という打ち込むものがあったかどうかだな。ゴッホには絵があったので幸せだったと思うと前に書きましたがそれは今も変わっていません。葉蔵にもそういうものがあったらな。私もそういうものを見つけなければ。

 

この前保坂和志さんの本を読んで、小説の違った読み方ができそうだと思いそういう読み方をしてみたのですが、そうすると中々前に進めなくなってしまったので一旦やめて普通に小説の中に入って読みました。2回目3回目でその読み方が実践できそうですが図書館で借りたのでもう返さなくてはいけなくて。買えばいいのにって話ですが。また次の機会に。

最後に「大活字本」だと字が大きくてとても読みやすくありがたかったです。最近は小さい文字が読みにくくて文庫本より単行本で読むようにしたりしているので。年齢がきて本が読みづらくなるのはつらくなるなあと思っています。